灯火の先に 第17話


「なりふり構わずか、やってくれる!」

C.C.はアクセルを限界まで踏み込みながら叫んだ。
もう、こうなったら警察に追いかけられても構わない。
むしろ、警察にこの現状を見てもらいたいところだ。
飲み物と食べ物は保存のきく物も含め確保した方がいいという判断で、コンビニに寄ったのが間違いだった。最悪な事に、C.C.を知っている者とはち合わせたのだ。自国に戻り、代表を護衛するSPとなっていた黒の騎士団の元団員。いくら変装していても、解るものが見れば解ってしまう。
C.C.はゼロの愛人。
事実はともかく、ゼロと共にいるものだ。
だから、彼らはC.C.を、いや、その車を標的にした。そこからは、映画やドラマの中では幾度となく目にしたカーチェイス。 それをまさか自分がやることになるとは。 信号の少ない道を選び、時には高速に乗って走り続けたが、相手はいつまでも追いかけてくる。
ガソリンを入れたばかりなのは不幸中の幸いか。
軽く100kmを超えるスピードで走り続け、時には体当たりまでされ、それでも流石数百年生きただけあり、冷静さを保ち、パニックに陥ることなくパソコンで道路状況を先読みした咲世子の指示通り進んでいく。
だが、多勢に無勢。
騒ぎに気付いた日本、いやカグヤも日本駐屯軍と警察を動かしはじめ、上空にはヘリまで飛んでいる。

「どうする?このまま逃げた所でどの道捕まると思うんだが?」

誰につかまるかはともかく、逃げ切るのは不可能に近いだろう。

「そうとも限りません、この先高速を下りてください。・・・まだ再開発が始まっていない新宿に逃げ込みましょう」

新宿。つまり旧シンジュクゲットー。
C.C.とスザクは思わず表情を消した。
スザクにとってはルルーシュと再会を果たした場所。
C.C.にとっては、ルルーシュと出会い、ギアスを渡した場所。

「再開発がまだという事は、相当荒れた状態だろうな」
「はい、そしていまも多くの人が隠れ住んでいる場所でもあります」

日本を取り戻したからといって、全ての人が普通の暮らしに戻れたわけではない。全てのゲットーが元の町に戻ったわけではない。いまだ政府の手が入らない崩れ落ちたビルや家屋が乱立し、無縁仏の墓が至る所にある荒れ果てた場所は、日本の各地に残っていた。そこには、エリア11だった頃から住みついていた者、あるいは日本を取り戻してから住みついた者たちが集まり暮らしており、いわゆるスラムと化していた。

「だが、そうだな。シンジュクゲットーは黒の騎士団にとってはなじみの庭だからな」

何度となくブリタニア軍が黒の騎士団を捕縛するために各ゲットーに兵を送り込んだが、結局ゼロも幹部も、そのアジトさえ見つかる事はなかった。スザクにとってはなじみの無い場所であっても、二人にとっては勝手知ったる、といったところだ。
こんなカーチェイスをするよりも、自分の縄張りに引き込んだ方が勝率は上がるだろう。何より、シンジュクはゼロが用意していた逃走ルートが最も多い。

「決まりだな、行くとしようか我らが古巣へ」

C.C.はスピードも落とさず、ウインカーも出すことなくインターチェンジに向けて左折した。まさかあれだけのスピードで走っていながらここで降りるとは思わなかったのだろう、右と後ろに付けていた車は対処しきれず直進していった。曲がってすぐに急ブレーキを踏んだとはいえ、スピードがかなり出ていたから壁に車体をこすりつけてしまったが、傷やへこみなどどうでもいい、今は動けばそれでいいのだから。
ETCを搭載した車は、追ってきた車に追いつかれることなくその場を後にした。



「逃げられたとはどういう事ですの?」

カグヤは報告を聞き眉を寄せた。
各国がゼロ、いやスザク捕縛に動いている事を知り、彼らを保護するために動いたというのに、彼らはその手からも逃げ、シンジュクゲットーで姿を消したという。
見知らぬ男女が式根島の方から来たと言う僅かな情報から、可能性を見出しての行動だったと言うのに。

「今のところ、他国がゼロ様を連れ去った痕跡もなく・・・」
「浚われていたら一大事ですわ!いいですか、何としてもゼロ様を保護するのです!C.C.もいるのなら、共に保護しなさい!」

カグヤは駐屯軍、警察にそう命じた。
彼女は、このような大がかりな行動を起こした事が原因で、ゼロがこの国いる事が知られ、追われている事に思い至っていなかった。

「シンジュクゲットーならば、古くからいる団員に案内をさせるように。彼らはあの地をよく知っていますわ」

動けば動くほど、ゼロの逃げ道を塞いでしまうことに気づいていない。
カグヤの命令で動いている彼らの中に、好奇心から、敵対心から、復讐心から、あらゆる負の感情からゼロの正体を見ようと、その身を危険にさらそうとする者がいる可能性を一切考えていない。
中にはゼロと入れ替わり、英雄の名を手にしようとする者もいるだろう。
人は善人だけでは無い。
上の人間が命じれば、素直に従う人間だけでは無い。
その事を、完全に失念していた。

こうしてスザク達は有利なはずの地、シンジュクゲットーでも追い詰められていった。

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